単行本『タッスイのッとは何か』発売中

≪単行本≫

  • 高山林太郎,『タッスイのッとは何か』,高知:リーブル出版,2018年4月20日

≪内容の説明≫ 

 本書は形容詞などに挿入される拍,「挿入拍」(促音(ッ),撥音(ン),長音(ー)),そして挿入拍を有する形,「挿入形」の由来に関する新仮説を世に問う。中央式・東京式諸方言(京都,東京など)において南北朝期に起こった規則的なアクセント変化である語頭隆起の際に,音変化前の古い世代の遅上がりする低起式を,音変化後の若い世代が,形容詞・形容動詞・オノマトペなどの強調されやすい品詞・語種における強調形として伝承し,アッカイ(低低高低),アカーイ(低低高低)のような挿入形が生じたのではないかと説明する。「低高」という早上がりの抑揚でなく,「低低高」という遅上がりの抑揚を実現する為に,足りない長さの分だけ挿入拍を補ったという訳だ。本書で主として調査する高知市方言は室町時代京都方言相当の方言で,低起式が早上がりを保っているため,早上がり低起式と遅上がりイントネーションとの区別が存在し,本書の調査が可能となった。なお京都では低起式自体が遅上がりするように変化しているが,京都にもヤスーイ(低低高低)のような長音だけが高い発音が存在することが判明した。

 また,音変化前の古い世代の音韻を,音変化後の若い世代が,形容詞・形容動詞・オノマトペなどの強調されやすい品詞・語種における強調形として伝承することがある現象,「音韻生存(phonosurvival)」の存在を本書で初めて提唱した。その代表例は昔からよく知られている「ピカピカひかる」の「ピ」であり,奈良時代以前のパ行子音の音声が,少なくとも1300年以上は生存している。

 

≪タスイの説明≫

 「タスイ」は「しまりがない」という意味の形容詞で,高知県で広く使われている。「タッスイ」はよく知られており,キリンビールの「たっすいがは、いかん!」という高知県内の広告文句(「パンチが無く薄味のビールはダメだ!」の意)にも登場するほどだが,「タッスイ」を知っている人でも「タスイ」という元の形容詞を知らない場合があり,その場合,挿入形というよりは促音(ッ)を擁する通常形として認識されていることになる。「タスイ」の意味は大きく分けると次の5つに分類される。

  1. 「紐や縄や帯などに締まりが無い」:緩い
  2. 「やり方に締まりが無い」:きちんとしていない,生ぬるい,いい加減である,おろそかにしている,ずさんである
  3. 「人格に締まりが無い」:気弱だ,気が弱い,根性が無い
  4. 「体調に締まりが無い」:疲労困憊している,栄養不足である,病気である,病み上がりである
  5. 「飲食料品の風味に締まりが無い」:風味が弱い,風味が落ちている,風味が損なわれている

≪付録について≫

 本書『タッスイのッとは何か』は,著者の博士論文「高知市方言の一拍挿入低起式化形」のうち本文部分を抽出し,「はじめに,著者紹介」を加えたものであり,付録 A・付録 B・付録 Cの大部分はインターネット公表のみとする。「博士論文の内容の要約」として「東京大学学術機関リポジトリ」(https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/)でインターネット公表されるが,「博士論文の内容の要約」には逆に本文部分が含まれておらず,本書を参照する必要がある。付録 A・付録 B・付録 Cを詳しく読む必要がある読者は専門家に限られる。但し「博士論文の内容の要約」が「東京大学学術機関リポジトリ」で公開されるのは2019年秋頃を予定しているため,それまではこちらで公開する。【以下追記;】東京大学学術機関リポジトリでの公開後,ファイルを確認したところ,検索不可能な状態だったため,検索可能なこちらのファイルの公開も続行することにした。

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博士論文の内容の要約
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